きっかけは「起業のファイナンス」

nanapiに入社した時に一度読み、その後も何度か拝読している「起業のファイナンス」。

最近、増補改訂版も出版されました。

起業のファイナンス 増補改訂版 ベンチャーにとって一番大切なこと [単行本(ソフトカバー)]

先般のnanapiのKDDIグループ入りなども経験したりしていたので、そろそろ理解できるようになったかも・・・?と思い、読みなおしたのがきっかけです。

恥ずかしながら以前は難しい言葉が並び、10%も理解できなかったんじゃないかと思います。ですが、今回はページを進めて行きながら、天空の城の石版で興奮したムスカ大佐よろしく「読める・・・!読めるぞ!!」みたいな感じでした。

突然の孫子

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(photo by vlasta2,Bamboo_Book_binding | http://www.flickr.com/photos/bluefootedbooby/370458424/ )

そんな中、以前はゆとり無く読んでいたからか気が付かなかったのですが、注釈に突然孫子が登場している事に気が付きました。(今回は関係ないですが、スター・ウォーズも注釈に登場します)

※3孫子「計篇」がベンチャーの事業計画の策定に非常に参考になります。

第3章 事業計画の作り方 p123

また、

事業を始める前に事業計画を立てて、外部環境や自分の会社の技術力などを総合的に考え、利益やキャッシュフローが出る可能性が高そうだと合理的に考えられる計画になっていれば、成功する可能性はあるはずです。しかし、計画段階で、前提が間違っていたりすでに成功の可能性が低そうな計画になっていたりしたら、成功する確率は低いでしょうし、成功する可能性がまったくない計画なら問題外、と言えます。

第3章 事業計画の作り方 p125

の本文に対し、

※4 これも、孫子「計篇」からの引用です。

と記載がありました。これは非常にキニナル。石田衣良の小説で村上春樹「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」が登場した時に気になりすぎて結局そっちを先に読んでしまった時以来の衝撃が走りました。

孫子の「計篇」を会社の事業計画の考え方として翻訳してみました

というわけで、前置きが長くなりましたが、良い学びの機会かと思い、孫子の「計篇」を事業計画の考え方として翻訳してみました。随分な拡大解釈もありますがなんとなくまとめています。

以下、原文(漢文)、事業計画策定参考文としての訳の順番で列記していきます。

【一】

孫子曰、兵者國之大事、死生之地、存亡之道、不可不察也、故經之以五事、校之以計、而索其情、一曰道、二曰天、三曰地、四曰將、五曰法、

事業を推進していくことは、企業・会社において、もっとも重要なことの一つである。役員、従業員等のそれぞれの活動の結果の成否の積み重ねによって、会社の存亡の分かれ道となるので、よくよく事業計画を検討した上で事業を推進していかなくてはいけない。事業計画の検討の際には、5つの事柄で事業計画を練り、7つの視点でその計画の合理性を確かめてみる必要がある。

【二】

道者令民與上同意也、故可以與之死、可以與之生、而不畏危、天者陰陽寒暑時制也、地者遠近險易廣狹死生也、將者智信仁勇嚴也、法者曲制官道主用也、凡此五者、將莫不聞、知之者勝、不知者不勝、故校之以計、而索其情、曰主孰有道、將孰有能、天地孰得、法令孰行、兵衆孰強、士卒孰練、賞罰孰明、吾以此知勝負矣、

<5つの事柄とは>

  1. 道:従業員が経営者や幹部と同じ目標や目的を見定め、事業を推進できるよう、明確なビジョンや目指すべき姿などを指し示すこと。

  2. 天:世の中の流れや、景気、タイミングなど、社会全体の移り変わる時代の様子。

  3. 地:事業を進めていく上での難易度、マーケットの規模、マーケットにおける現在のポジションなどの、事業を取り巻く外部環境のこと。

  4. 將:専門性、誠実さ、気配り、チャレンジ、決断力などを持ち合わせたコアとなる人材(経営幹部)のこと。

  5. 法:組織編成の考え方やマネジメント手法やオフィス等の設備投資などの考え方、ルール、文化のこと。

これら5つの事を深く理解や検討している経営者は成功を収め、深く理解していない経営者は失敗してしまう。深い理解を得たければ、次の7つの視点でチェックし(事業計画の)合理性を確かめるべきである。

<7つの視点とは>

(主に自社と競合他社と比較し)

  1. 経営者は従業員からどちらが信頼されているか。

  2. 経営幹部はどちらが有能であるか。

  3. 社会の情勢と、マーケット環境はどちらに有利に働くか。

  4. どちらのガバナンスが適切に機能しているか。

  5. 組織はどちらが優れているか。

  6. 個々の社員の能力等はどちらが優れているか。

  7. 賞罰はどちらが公平に行われているか。

この視点でその計画の合理性を確認することによって実行前にその成否をシュミレーションしてみることが可能となる。

【三】

將聽吾計、用之必勝、留之、將不聽吾計、用之必敗、去之、計利以聽、乃爲之勢、以佐其外、勢者因利而制權也、

経営者が、5つの事柄と7つの視点によって生み出された事業計画によって、事業を推進していく場合、成功をおさめる可能性が高い。経営者が無計画なまま事業を推進してく場合、きっと失敗に終わるので、止めたほうがよい。また、推敲に推敲を重ねて本当に成功する可能性の高い(と思われる)事業計画が策定できたいうことは、シュミレーションとしてはもう十分であり、あとは実際にマーケット向かって事業を押し進めていけばいい。ただ、全てがイメージ通りには運ぶはずはない。有利な状況の中でそれに基づいてその場その場に適した臨機応変の処置をとりながら、推し進めていく必要がある。

【四】

兵者詭道也、故能而示之不能、用而示之不用、近而示之遠、遠而示之近、利而誘之、亂而取之、實而備之、強而避之、怒而撓之、卑而驕之、佚而勞之、親而離之、攻其無備、出其不意、此兵家之勢、不可先傳也、

競争戦略では、他社との利害関係をコントロールし、競合との真っ向勝負は極力避けながら勝つことを目指すべきである。そのためには、自社商品の特性や、資金力が勝っていたり、ターゲットとなる顧客層などが重なる部分が合っても、そうでない姿勢を見せるなどしながら、競合他社がマーケットシェア獲得に躍起になっている時は争わず、逆に迷走などをしている時に一気に獲得を計るなど、時流や顧客の動きなどに常にアンテナを張り、世の中の流れを味方に付け、事業の発展に活かすことが重要となる。競合他社や世の中の状況は刻々と変化し、それぞれの状況に応じた対応が必要となる。これらの変化を事業計画の策定時に想定し得るものではない。常に変化を察知し、迅速かつ適切な対応を行ってこそ、時流を見方にできる。

【五】

夫未戰而廟筭勝者、得筭多也。未戰而廟筭不勝者、得筭少也。多筭勝、少筭不勝、而況於無筭乎。吾以此觀之、勝負見矣。

事業を進める前に、その成功をイメージできるということは、5つの事柄と7つの視点に従って検討した結果、きちんとした事業計画の策定ができたということだ。事業を進める前に、その成功のイメージできないということは、そうではないということだ。成功のイメージを持てれば成功する可能性は高いが、そうでなければ成功はしない。まして、まったくイメージがつかない場合はなおさらだ。投資家などは、(5つの事柄と7つの視点と)同じようなことで観察して、その事業の成否の行く末を判断している。

一覧にまとめておきました

上記の翻訳を始め、漢文、書き下し文などを一覧でまとめておきました。

孫子の計篇_漢文から翻訳まで http://goo.gl/IpHv7y

※Googleドライブに飛びます。

というわけで

孫子の「計篇」を事業計画策定用翻訳してみました。紀元前の世界で、現代においても通用する考え方を持ち合わせていたとは驚きました。今回翻訳してみた「計篇」だけでなく、「作戦篇」「謀攻篇」などと続いていくようです。また読んでみようと思います。がんばります。

あとがきその1

このエントリのアイディアを思いついた時、急に漢文をブツブツ読み始めた姿を見て、総務系を担当している女性メンバーから、「大丈夫ですか?」と心配されたりしました。僕は大丈夫です。

あとがきその2

このエントリがきっかけという訳では無いのですが、先日「起業のファイナンス」著者の磯崎さんに面談する機会を頂戴し、出来たてほやほやの「増補改訂版」を頂戴しました!ありがとうございます!

まだ読んで無い方は是非読んでみてください!